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東京地方裁判所 平成10年(ワ)25640号 判決 2000年3月31日

原告

クリエートメディック株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

小川修

右訴訟復代理人弁護士

関口佳織

被告

株式会社ディヴインターナショナル

右代表者代表取締役

【B】

被告

株式会社塚田メディカル・リサーチ

右代表者代表取締役

【B】

被告ら訴訟代理人弁護士

酒井正之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、別紙物件目録二及び三記載の導尿用具を製造し、譲渡し、譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。

二  被告らは、別紙物件目録二及び三記載の導尿用具並びにそれらの半製品を廃棄せよ。

三  被告らは、原告に対し、連帯して金七四七万六一二〇円及びこれに対する被告株式会社ディヴインターナショナルについては平成一〇年一一月一三日から、被告株式会社塚田メディカル・リサーチについては平成一〇年一一月二二日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、①被告らによる導尿用具の製造販売行為が、原告の有する実用新案権の侵害に当たる旨、②原告の製造販売する導尿用具の形態が原告の商品表示として周知であるところ、被告らの製造販売する導尿用具の形態はこれに類似し、混同を生じさせる旨を主張して、被告らに対し、右製造販売行為の差止め等及び損害賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実(特に断らない限り、当事者間に争いがない。)

1  原告の実用新案権

原告は、次の各実用新案権(以下、順に「本件実用新案権一、二」といい、その考案を「本件考案一、二」といい、両考案をあわせて「本件各考案」という。)を有している。

(一) 本件実用新案権一

(1) 登録番号 第一九一〇六〇七号

(2) 考案の名称 自己導尿用具

(3) 出願日 昭和六三年九月七日

(4) 出願公告 平成三年七月一九日

(5) 登録日 平成四年六月一一日

(6) 実用新案請求の範囲 別紙実用新案出願公告公報一写しの該当欄記載のとおり

(以下、右公報掲載の明細書を「本件明細書一」という。)

(二) 本件実用新案権二

(1) 登録番号 第一九一〇六〇八号

(2) 考案の名称 自己導尿用具

(3) 出願日 昭和六三年九月七日

(4) 出願公告 平成三年七月一九日

(5) 登録日 平成四年六月一一日

(6) 実用新案請求の範囲 別紙実用新案出願公告公報二写しの該当欄記載のとおり

(以下、右公報掲載の明細書を「本件明細書二」という。)

2  本件考案の構成要件(被告らは明らかに争わない。)

(一) 本件考案一

(1) 請求項1

A 一方の端部は封止され、他端には蓋が螺合される筒状の容器

B チューブで一端のみが封止されその近傍にチューブ内腔から外面に通ずる孔が穿たれた導尿用カテーテル

C 容器に導尿用カテーテルが収容されて成る導尿用具

D 前記蓋は内底に突起部が設けられ、その先端外面に前記カテーテルの封止されていない端部を被覆して嵌合可能とされるとともに、該被覆面から被覆面外に通ずる流体流通溝を穿つ

(2) 請求項2

E 前記容器は、中央部に伸縮自在な蛇腹状に形成された屈伸部を設ける

(3) 請求項3

F 前記容器は、両端近傍にフック係止環を嵌合固着した

(二) 本件考案二

AないしC前記(一)のAないしCに同じD′前記蓋は内底に突起部が設けられ、その先端外面に前記カテーテルの封止されていない端部を被覆して嵌合可能とされるとともに、該突起部の先端から軸心に沿って単数の孔が穿たれ、かつ、この孔と連通し、前記カテーテルの端部が被覆しない突起部外面に通ずる複数の孔を穿つ

3  原告の商品

原告は、昭和六三年一一月から(甲三により認める。)、別紙物件目録一記載の導尿用具(以下「原告商品」という。)を製造販売している。

4  被告らの行為

被告らは、別紙物件目録二、三記載の各導尿用具(以下、順に「イ号物件」、「ロ号物件」という。)を業として製造販売している(以下、両物件をあわせて「被告各物件」という。)。

二  争点

〔実用新案権に基づく請求〕

1 本件各考案の構成要件と被告各物件の構成との対比

(原告の主張)

被告各物件はそれぞれ、本件各考案の構成要件をすべて充足し、その技術的範囲に属する。

(一) 構成要件Aについて

構成要件Aでは、蓋が容器に螺合されるが、イ号物件にあっては、キャップ2が容器1に導尿用カテーテル6を介して嵌合される点で異なる。しかし、キャップ2が容器1に直接嵌合されず、導尿用カテーテル6を介して嵌合されることは、作用効果を同じくし、設計上の微差に過ぎない。むしろ、イ号物件は、キャップ2が容易に脱落し、その消毒液が漏れ易くなる点、また、導尿用カテーテル6を容器1に収納した状態でなければ、キャップ2を冠することができず、不便である点において、構成要件Aの改悪である。

構成要件Aでは、蓋が容器に螺合するが、ロ号物件にあっては嵌合する点で異なる。しかし、導尿用カテーテル8を公知のバルーンカテーテルとしたことから行われた設計変更に過ぎず、当業者であれば容易に想到できたものである。

(二) 構成要件D及びD′について

構成要件Dでは、蓋の内底に設けられた突起部の先端外面に前記流体流通溝を設け、流体流通路としている。また、構成要件D′にあっては、蓋の内底に設けられた突起部の先端から軸心に沿って単数の孔が穿たれ、かつ、この孔と連通し、前記カテーテルの端部が被覆しない突起部外面に通ずる複数の孔を穿ち、流体流通路としている。他方、イ号物件では、キャップ2の内底に設けられたプラグ本体4の先端から軸心に沿って単数の孔5が穿たれ、流体流通路を形成し孔5の上端を磁力により着脱可能に被覆する蓋3が設けられているので、構成要件D及びD′とイ号物件とは異なる。しかし、構成要件D及びD′とイ号物件は、容器中に消毒液を入れておき、カテーテルを収納し又は取り出す際、カテーテルの内腔に消毒液が流入し又は流出し易いよう流体流通路を設けたものであり、技術思想を同じくし作用効果を等しくするものであり、設計上の微差にすぎない。

また、ロ号物件は、イ号物件と比較して、バルーンカテーテルである導尿用カテーテル8を収納する構成としたため、別体の蓋2を設けなければ外れ易くなるので、これを防止するため、導尿用カテーテル8に蓋2を固着した点のみが異なるが、流体流通路を内腔から外面に通ずる孔4から流入する消毒液及び空気などの通路とした点では異ならない。したがって、ロ号物件も、同様に構成要件D及びD′を充足する。

(被告らの反論)

被告各物件は、以下のとおり、本件各考案の技術的範囲に属さない。

(一) 構成要件Aについて

(1) 構成要件Aには「蓋が螺合される筒状の容器」とされている。「螺合」とは、文字どおりネジ止めされることである。本件各明細書の実施例の説明いずれも、ネジを刻んだ構成であることが明記され、図面もネジ止めのものだけが記載されている。

この「螺合」は、カテーテルを身体に装着しない時に、容器内にカテーテルを収容し、容器外に消毒液がこぼれないように完全に蓋をしておくためである。

カテーテルを身体に装着する際には、カテーテルを取り出すので、当然蓋を容器から外すとともに、蓋を更にカテーテルから外すことになる。そして、尿を排出するまでは、カテーテルの端を折り曲げて洗濯バサミで挟むとか、バルンキャップ(筒状・矢状の栓)を出口に差し込むなどして、尿の排出を防止しなければならない。そうしないと、患者の意図に反して尿が外に飛び出し、周囲を汚すことになる。また、バルンキャップを装着する時あまりきついと抜去する時に苦労するし、ゆるいと自然に外れてしまって尿が漏れるという問題もある。

(2) これに対し、イ号物件の蓋3及びロ号物件の蓋11は、いずれも容器1に螺合しない構造である。蓋の開閉は螺子によるものではなく磁力によるものである。蓋自体が容器と直接係合しているものではなく、カテーテルの一部が容器と蓋との間に介在することも本件実用新案の構成と異なる。

蓋は排尿口を開け閉めし、尿を外部に排出するためのものである。排出時以外は蓋を閉めておく。排出時にワンタッチで(片手でも)蓋の開閉が容易に可能であり、周囲を汚すこともない。

(二) 構成要件D及びD′について

(1) 構成要件Dでは、カテーテルの「該被覆面から被覆面外に通ずる流体流通溝を穿ったことを特徴とする」とされ、また、構成要件D′では、蓋の内底の「突起物の先端から軸心に沿って単数の孔が穿たれ、かつ、この孔と連通し、前記カテーテルの端部が被覆しない突起部外面に通ずる複数の孔が穿たれたことを特徴とする」とされている。

この流通溝(孔)は、容器内において、カテーテルの内側と外側をつなぐものである。このことは、本件各明細書における、問題点を解決する解決手段、実施例、作用効果の記載に照らせば、明らかである。

流通溝(孔)は、容器中の消毒液のカテーテル内への流入及びそこからの流出を改善するためのものであり(本件明細書一の三欄一~二行、本件明細書二の二欄二一~二二行)、本件考案の最も重要な構成である。

(2) これに対し、被告各物件には、前記の溝、孔が存在しない。

被告各物件の孔は容器・カテーテルの内側と外側を通じるもので、容器内を通じる溝・孔ではない。

また、右孔は、尿を外部に排斥するための孔であって、消毒液の流入・流出を改善するためのものではない。容器への挿入時や容器からの引出時には、蓋を閉めて操作する。取扱説明書にもその旨が明記されている。したがって、原告主張の作用効果、すなわち孔を通して空気の容器内流通が生じることは全く予定されていない。

また、本件考案二の構成要件D′では、単数の孔以外にこれと連通する複数の孔が必要であるが、被告各物件には、「連通する複数の孔」は存在しない。

〔不正競争防止法に基づく請求〕

2 不正競争行為の成否

(原告の主張)

(一) 原告商品の形態の周知商品表示性

原告は、昭和六三年一一月から原告商品を製造販売している。原告商品は、中央部に伸縮自在な蛇腹状に形成された屈伸部が設けられており、屈伸部で屈曲した場合、容器の平面形状が左右ほぼ対称となるというシンプルな美観を有するとともに、平面形状の下部に湾曲した蛇腹部分が現れ、提灯などの華やかな物を連想させる極めて特徴ある、快い外観を形成する。このため、原告商品は、ややもすると精神的に暗くなりがちな患者の気分を引き立て、他人の目を気にせずに携帯できることから、医師その他の医療関係者及び患者らの需要者並びに医療機器取扱業者から好評を得ており、右のような原告商品の形態上の特徴は、一見して原告の商品であることを識別できるものとなっている。

原告商品は、販売開始時から全国の医療機器販売業者約三二〇社を通じて全国的に販売され、平成九年までに一九万八三九九個販売し、平成一〇年にはより多くの需要があった。また、毎年開催される日本泌尿器科学会に併設される医療機器の展示会にも出品され、医科器械図録にも登載され、医療関係者を読者とする定期刊行雑誌等にも紹介されている。

したがって、原告商品の形態は原告の商品表示として、我が国で需要者の間に広く認識されている。

(二) 類似及び混同のおそれ等

被告各物件の形態は、前記の原告商品の形態と類似し、その結果、原告商品との混同を生じている。被告らは、出所を誤認させる目的で故意に不正競争行為を行っている。

(被告らの反論)

(一) 原告商品の形態の周知商品表示性について

製品の形態自体が製品の出所を示す表示に該当するのは、形態を見ることにより商標や商号と同様に出所が認識されるごく例外的な場合である。本件では、登録商標や商号に代替・匹敵するまでに原告商品形態の周知性が確立しているとはいえない。

自己導尿用カテーテルは、国内市場では、メーカーとして原・被告以外に一社があるだけで、三社体制であるから、それぞれ、会社名・商品名(商標名)などにより、自他商品は容易に識別できる。

原告商品は、細かい医師の管理指導の下に、患者に支給されるのであって、病院の売店で販売されるものはごく一部である。このような医療器具取扱の特殊性からして、商品の形態が患者にとって特定出所の表示力を有することはない。

原告商品は、メーカーから医科器械店、病院を経て患者に支給される流通経路をたどる。この取引段階のすべてにおいて、製品はメーカー名、商品名、商標によって特定されて取引される。医療機関や薬局が、商品の形態によって商品の自他識別をすることはないから、商品形態が自体識別力を持つことはあり得ない。

(二) 類似及び混同のおそれについて

被告各物件は、外観において原告商品と異なり、両者の形態は類似していない。例えば、①カテーテルが容器に完全に収納されるか否か、②蓋が螺合する構造であるか否か、③蓋の内部の流体流通溝が形成されているか否か、④容器の端部が他の端部と係着するか否か、⑤フックがあらかじめ取り付けられているか否か、⑥キャップがあるか否か等の点で形態が異なる。

被告各物件には、顕著な出所表示(社名・商品名・登録商標)が付されているので、被告各物件を原告商品と混同して購入することはない。

被告各物件は、医師の注目の浴びるところとなり、各種医療文献においても紹介されている。また、被告らは被告各物件の宣伝広告に大きな力を注いでいる。したがって、被告各物件は、医師・医療機関などでは原告商品などの従来品とは異なる効用を有するものとして、差別化されたものとして認識されており、原告商品と混同するおそれはない。

〔両請求〕

3 損害額

(原告の主張)

被告らは、平成八年始めころから現在まで、被告各物件をあわせて合計一万六五〇〇個製造販売している。被告各物件の平均販売価格は一個当たり一七八五円であり、被告らの利益率は二〇・八パーセントであるから、被告らの利益額は、合計六一二万六一二〇円となる。

また、原告は、本訴提起のため、原告訴訟代理人に着手金一三五万円を支払った。

したがって、損害額は七四七万六一二〇円となる。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件各考案の構成要件と被告各物件の構成との対比)について以下のとおり、被告各物件は、本件各考案の構成要件のうち少なくともA、D及びD′を備えていないから、本件各考案の技術的範囲に属さない。

1  構成要件Aについて

(一) 本件各明細書の実用新案登録請求の範囲には、「一方の端部は封止され、他端には蓋が螺合される筒状の容器」(構成要件A)と記載されている。「螺合」は、その字義から「ねじをはめ合わせること」を意味することは明らかである。

本件各明細書の「考案の詳細な説明」欄には、以下のとおり、蓋としてねじを刻んだ構成のもののみが記載され、それ以外の構成のものは一切記載されていない。すなわち、実施例の説明においては、本件明細書一では、「蓋2を螺合可能なネジ山3aを刻設した筒状に形成」(三欄一四~一六行)、「蓋2は、容器本体1に螺合可能にネジ山3bが刻設される」(三欄二八~二九行)と記載されている。また、本件明細書二では、「蓋2を螺合可能なネジ山3aを刻設した筒状に形成」(三欄七~八行)、「蓋2は、容器本体1に螺合可能にネジ山3bが刻設される」(三欄一八~一九行)と記載されている。これらは、いずれも、蓋はねじを刻んだ構成であることを明記している。また、図面においても、蓋はそのような構成のもののみが記載されている。

以上のとおり、本件各明細書の考案の詳細な説明欄の記載等を参酌すれば、構成要件Aにおける「蓋が螺合される筒状の容器」は、蓋にねじを刻んだ筒状の容器を指すものと解すべきである。

(二) これに対し、イ号物件における構成要件Aに対応する部分は、「一方の端部は封止され、他端にはキャップ2がカテーテル6を介して嵌合される筒状の容器1」であり、ロ号物件における対応する部分は、「一方の端部は封止され、他端には蓋2が嵌合される筒状の容器1」である。そして、図面もあわせれば、イ号物件におけるキャップ2及びロ号物件における蓋2は、ねじを刻んだ構成のものではないことが明らかである。

したがって、被告各物件は、構成要件Aを充足しない。

2  構成要件D及びD′について

(一) 本件明細書一の実用新案登録請求の範囲には、「前記蓋は内底に突起部が設けられ、その先端外面に前記カテーテルの封止されていない端部を被覆して嵌合可能とされるとともに、該被覆面から被覆面外に通ずる流体流通溝を穿つ」(本件考案一の構成要件D)と記載されている。ここにおいて、流体流通溝は、カテーテルの被覆面から被覆面外に通ずるものであると明記されている。また、溝とは、一般に、細長くくぼんだ部分を意味するものであることは明らかである本件明細書一の「考案の詳細な説明」欄の「問題点を解決する解決手段」には、「カテーテルの内腔に消毒薬が入り易いようにカテーテル内の空気の流通溝を設けた」と(三欄一~二行)、また、「本考案の作用、効果」には、「容器本体1に導尿カテーテル6を収容するにあたり、蓋2に設けた突起部4に嵌着し、予め消毒薬をいれてある容器本体1に挿入すれば、導尿カテーテル6内腔内の空気は孔8から流入する薬液圧によって流体流通溝5a、5bから排出され、また、これを取り出す際には、薬液が孔8から排出されるときに空気が流体流通溝5a、5bから流入することになるので、これらの場合もその扱いが容易となる」(四欄八~一六行)と、それぞれ記載されている。ここにおいて、流体流通溝は、カテーテルの内面と外面を通じているため、カテーテルの取出し、収容に際して空気が流通し、その結果、消毒薬液が自然と流入、流出するものであることが明記されている。

以上のとおり、本件明細書一の考案の詳細な説明欄の記載等を参酌すれば、構成要件Dの流体流通溝は、カテーテルの内面と外面を通じており、カテーテルの取出し、収容に際して空気が流通するための、細長くくぼんだ部分を指すものと解すべきである。

(二) 本件明細書二の実用新案登録請求の範囲には、「前記蓋は内底に突起部が設けられ、その先端外面に前記カテーテルの封止されていない端部を被覆して嵌合可能とされるとともに該突起部の先端から軸心に沿って単数の孔が穿たれ、かつ、この孔と連通し、前記カテーテルの端部が被覆しない突起部外面に通ずる複数の孔を穿つ」(本件考案二の構成要件D′)と記載されている。ここにおいて、流体流通孔は、カテーテルの被覆面から被覆面外に通ずるものであることが明記されている。

本件明細書二の「考案の詳細な説明」欄の「問題点を解決する技術手段」には、「カテーテルを収容する容器に満たした消毒薬がカテーテルに流入する際はカテーテル内の空気が排出され、カテーテルから消毒薬が排出されるときはカテーテル内に空気が流入する経路として、前記容器の蓋に設けられる突起部に流体流通孔を設けた」と(二欄二二行~二七行)、また、「本考案の作用、効果」には、「容器本体1に導尿カテーテル7を収容するにあたり、蓋2に設けた突起部4に嵌着し、予め消毒薬をいれてある容器本体1に挿入すれば、導尿カテーテル7内腔内の空気は孔9から流入する薬液圧によって流体流通孔5及び6を経て突起部4の外面に排出され、またこれを取り出す際には、薬液が孔9から排出されるときに空気が流体流通孔6及び5を経て流入することになるので、いずれの場合もその取り扱いが容易となる」(四欄五~一四行)と、それぞれ記載されている。ここにおいて、流体流通孔は、カテーテルの内面と外面を通じているため、カテーテルの取出し、収容に際して空気が流通し、その結果、消毒薬液が自然と流入、流出するものであることが明記されている。

以上のとおり、本件明細書二の考案の詳細な説明欄の記載等を参酌すれば、構成要件D′の流体流通孔は、カテーテルの内面と外面を通じており、カテーテルの取出し、収容に際して空気が流通するための孔であって、かつ単数の孔が途中から複数の孔に連通しているものと解すべきである。

(三) これに対し、イ号物件における構成要件D及びD′に対応する部分は、「前記キャップ2は内底に係合部17を設けた蓋3とプラグ本体4とから形成されており、該プラグ本体4は先端から前記カテーテルの封止されていない端部7を被覆して嵌合可能とされるとともに、該プラグ本体4の先端から軸心に沿って単数の孔5が穿たれ、該孔5の上端を前記蓋3が磁力により着脱可能に被覆する」である。また、ロ号物件における構成要件D及びD′に対応する部分は、「前記キャップ12は、内底に係合部20を設けた蓋11とプラグ本体9とから形成されており、該プラグ本体9は前記導尿用分岐管6の開口部を被覆して嵌合可能とされるとともに、先端から軸心に沿って単数の孔10が穿たれ、該孔10の上端を前記蓋11が磁力により着脱可能に被覆する」である。

そして、証拠(甲七、乙一四)によれば、①イ号物件の取扱説明書の「使用方法」欄に、身体装着直前に蓋を開け、排尿完了の後に蓋を閉めることが記載され、また、「使用上の注意」欄に、「導尿時以外、または保管時には、キャップ部分のフタがきちんと閉じていることを確認して下さい」と記載されていること、②イ号物件カタログの「使用上の注意」欄にも、「導尿時以外、又は保管時には、キャップ部分のフタがきちんと閉じている事を確認して下さい。」と記載されていることが認められる。また、ロ号物件は、イ号物件と比べて、バルーンを設けた点のみが相違し、その他の点は、蓋の構成も含めて、すべて同一のものであるということができるから、両物件における蓋の使用方法も同一であると推認できる。

以上の事実によれば、被告各物件において、カテーテルの容器への挿入時や容器からの引出時には、蓋は閉めた状態で操作するものであること、したがって、被告各物件の孔は、消毒液の流入及び流出を容易にするためのものではなく、尿を外部に排出するためのものであることが明らかである。そうすると、前記のとおり、構成要件Dにおける流体流通溝、及び構成要件D′における流体流通孔は、カテーテルの取出し、収容に際して、カテーテル内の空気を流通させるためのものであるから、イ号物件の孔はこれとは異なる。

したがって、被告各物件は、本件考案一の構成要件D及び本件考案二の構成要件D′を充足しない。

なお、被告各物件の孔は、奥まで管状に貫かれたものであるから、細長くくぼんだ部分とはいえず、この点からも構成要件Dを充足しない。また、被告各物件には、単数の孔が存在するのみであり、これと連通する複数の孔はないから、この点からも構成要件D′を充足しない。

3  設計上の微差の主張について

原告は、本件各考案の構成と被告各物件との前記の各相違は、設計上の微差にすぎない旨主張する。原告の主張を、被告各物件は本件各実用新案権の均等の範囲に属する旨の主張であると解した上で、以下のとおり判断する。

以下のとおりの理由により、原告の主張は採用できない。すなわち、①構成要件A及びDないしD′の構成を被告各物件の構成に置換することは当業者が被告各物件の製造時点において容易に想到することができたものであることを認めるに足りる証拠は一切ないこと、②本件各明細書の問題点の解決手段の欄及び作用効果の欄には、流体流通溝ないし孔を設けたことにより、カテーテルの取出し、収容に際して空気が流通し、消毒液が流入流出するため、取扱いが容易となることが本件各考案の重要な点として強調されているのであって、右記載に照らせば、構成要件Dにおける流体流通溝及び構成要件D′における流体流通孔と被告各物件との異なる部分は、本件各考案の本質的部分というべきであることに照らすならば、右主張は失当である。

二  争点2(不正競争行為の成否)について

原告商品形態の周知商品表示性について検討する。

商品の形態は、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、商品形態について強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形態が商品表示として需要者の間で広く認識されることがあり得るものというべきである。

そこで、本件について見ると、①原告商品の形態は、別紙物件目録一記載のとおりのものであり、他の商品と識別するような、形態における独特の特徴を見出すことができない。②また、原告商品についてその形態を強調した宣伝等が行われたことを認めるに足りる証拠も一切ない。③さらに、甲九号証及び乙一六号証によれば、原告商品、被告各物件を含む導尿用カテーテルのような商品は、原告及び被告らを含むメーカーから医療機関に対し販売され、その後、医師の管理指導を受けて患者に支給されるか、医師の処方に沿った特定の商品を指定薬局等で患者が購入する場合がほとんどであることが認められる。したがって、医師の指導下に使用購入されるという原告商品の独特の性格からして、商品形態によって商品の出所を識別するという事態は想定できない。

以上の事実を総合すれば、原告商品の形態が原告の商品表示として需要者の間で広く認識されているとは認められない。

したがって、不正競争防止法に基づく原告の請求も理由がない。

三  よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の本件請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 沖中康人 裁判官 石村智)

<以下省略>

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